この「インタラクションデザインの教科書 (DESIGN IT! BOOKS)」原著の題だと「Designing for Interaction: Creating Innovative Applications and Devices (Voices That Matter) 」は、著者のDan Safferがカーネギーメロン大学で大学院生としてインタラクションデザインの講義を担当する際に生徒に読ませるのに良い本を見つけるのに苦労をしたことを発端としている。そのせいか、同じような分野を扱っている「About Face 3 インタラクションデザインの極意」と比べるとザックリと細部を落とし見通しがつけやすい構成になっている。この本はまだ新しいこの領域の現在進行中にある中で、どのようになっているのか、そしてどのような手法の組み合わせを検討すべきかについて参考になった。
インタラクションデザインの定義をこの本より引っ張ってくると、このようになる。
インタラクションデザインは、製品やサービスを介して人と人がインタラクション(対話)することを手助けするための技術である。そしてまた、範囲を限定していえば、何らかの「認識力」を持つ製品と人間とのインタラクションに関するものであるといえる。認識力を持つ製品とは、人間に対して何らかの判断を行い、反応を返すことができるマイクロプロセッサを伴う製品のことである。
なんとなくで認識をしていた部分について、改めてこのように定義された文章を読むのは頭の整理ができて良い。
更に前半に書かれていた「近接領域」と「4つのアプローチ」が参考になったので、少しメモをしておく。
近接領域
インタラクションデザインについての文献は少ない状態なので、今後調べたり学習したりするにあたって、近接領域として何が存在するのかをまとめてくれている部分は、とても役に立ちそうだ。
ざっとその関係を記述すると、
- UX(ユーザーエクスペリエンスデザイン)
ユーザーと製品やサービスとの出会いを、ビジュアル・インタラクション・音声などのデザインから見て調和を図る。
インタラクションデザインのほぼ全てを含みそれよりも広い領域を扱う。
同じくUXに含まれインタラクションデザインと一部分の重なる分野に下記がある。 - IA(情報アーキテクチャ)
ユーザーの欲しい情報が見つかるようなコンテンツの構造とラベル付など、コンテンツ構造そのもの。 - CD(コミュニケーションデザイン)、もしくはグラフィックデザイン
フォント、色、レイアウトなどコンテンツを伝えるための視覚的な言語。 - UIE(ユーザインターフェース工学)
デジタルカメラの画面など、デジタル機器の制御。 - HCI(ヒューマン・コンピュータ・インタラクション)
インタラクションデザインよりも、もっと定量的な方法論に基づく。
OSなど人間がいかにコンピューターと関係しているかについての分野。 - UE(ユーザビリティ工学)
製品をユーザーにとって分かりやすいものにするためのテスティングに関する分野。 - HF(ヒューマンファクター)
物が人間の身体的・心理的制約に従うようにする。 - ID(工業デザイン)
形に関するもの。使用目的と機能に合わせて物の形を決める。
インタラクションデザインの文献だけで足りない時や深掘りしたい時は、これらの近接のどの領域あたりに検討をつけて探れば良いのかが見えやすくなった。
4つのアプローチ
インタラクションデザインは4つのアプローチとその組み合わせにより課題の解決を図るとしている。
- ユーザー中心デザイン(UCD:User-Centered Design)
「ユーザーはなんでも知っている」と言うことをデザインの哲学とする。
ユーザーがゴールを達成するためにデザイナーが関わる。
デザインプロセスの全段階で、ユーザーが参加することが理想。 - アクティビティ中心デザイン(Activity-Centered Design)
目的のために行われる行為や判断のかたまりをアクティビティと定義し焦点を当てる方法。
アクティビティは行為と判断から成り立つタスクの連続。
ユーザーゴールのためではなくユーザーのタスク完了のための解決策をデザインする。 - システムデザイン(System Design)
規定のコンポーネントの組み合わせでデザインの解決策を作る。
相互作用するコンポーネントであるシステムがデザインプロセスの中心。
ゴール、センサ、比較器、差動装置といったコンポーネントがシステムに含まれ、このコンポーネントをデザインする。 - 才能に基づくデザイン(Genius Design)
デザイナーの勘と経験に頼るアプローチ。
Apple社のようにセキュリティ上の理由からユーザーを巻き込む調査を行わないような場合やユーザーを絡ませるような資金や時間のない場合にとられるアプローチ。
デザイナー自身の感性が反映されやすい。
私の場合は、ほぼ「才能に基づくデザイン」がメインでアクティビティがほんの少しふりかけのように混じっているくらいのアプローチとなっている。
しかし今後は手持ち武器を増やすためにも他のアプローチを調べ、まずは個人開発の物から適用していってみたい。できればデザインリサーチも行なってみたいのだけど、その機会をどのようにしたら作れるか少し検討してみることにした。
この本ではさらにインタラクションデザインの基礎要素や法則などが説明されている。この辺りについてはスタディを書きつつ、ひとつひとつ深めていってみようかと考えている。
そうしたものや、スケッチ、ワイヤーなどのデザインドキュメント、インターフェイスあたりも説明されているが、中でも後半部分の、サービスデザインやウェアラブル・ユビキタスに触れている部分の未来に関する部分は、この本の中でも少し扱いが違い、インタラクションデザインが持つ可能性に楽しみを感じさせてくれた。